目を開けて。
最初に見た人だけを生涯、盲目的に愛するように出来るのならば。
愛も嘘も全て輝いて見えるのだろうか。
そんな馬鹿げた戯言をいつも考えている。
「んじゃ、ちょっくら出掛けて来るからイイ子で大人しく待っててね。天使サマ」
「気をつけて行くのだぞ。」
「俺サマ子供じゃないんだけど。ま、愛する天使サマの言いつけなら守ってあげるけど」
正装に身を包み、前髪を上げ、後ろ髪を三つ網に結って。
ゼロスは今晩も社交の場へと出掛けて行く。
私を一人にして。
「何をしようか・・・」
そう、一人で呟いてみるが、これと言ってすることなどない。
昼間は本を読み、稽古をし、また本を読む。
それしかすることがないのだ。
夜も同じ。
ゼロスが居る時は大概抱かれている。
しかし、こうしてゼロスがいない夜は暇を持て余すのだ。
『寝ていればいいのに』と、一度ゼロスに言われたが、天使として生きていた時間が長い為か、
余程疲れない限り眠れない。
ゼロスがいないと眠れないのだ。
だからいつもこうして窓の外に瞬く星を眺めて過ごし。
眠れぬ夜を持て余していた。
・・・・・・一人きりで。
何も、考えたくは無かった。
背に、蒼い羽根が瞬いた。
+++
「・・・・・・・どーゆーことだ、セバスチャン」
「・・・クラトス様はこの屋敷には居られません。」
着崩した礼服をそのままに、ゼロスは目を見開いた。
「夜、警備の者はクラトスを見なかったのか?!」
いつもなら、散歩と称して誰かに言付けを頼んで出て行くのに。
「それが・・・お部屋から出られていないようです。窓が開いていましたので・・・・」
「・・・・・・飛んでいった、ってことか」
開け放たれたままの窓を見て、ゼロスが苦い顔をする。
「居なくなってから大体どれくらいの時間だ?」
「メイドの者が廊下の明かりを消しに行った時間ですから・・・今から約4時間程前です。」
「4時間・・・クソッ・・!」
もし本当に飛んでいったのなら、行ける範囲は広いだろう。
それよりも何故、クラトスは何も告げずに失踪したのか。
そればかりがゼロスの心を強く捉えていた。
「セバスチャン、俺サマのレアバード用意しておいてくれ。今から探しに行く。」
「お言葉ですがゼロス様。レアバードは夜間に対応してはおりません。
ましてや今夜は月が隠れています。明かりもなしに飛行するなど・・危険です。」
「危険は承知で言ってんだよ!いいな、俺サマが着替えを済ませるまでに用意しておけ」
怒気を孕んだ声でゼロスが言うと、セバスチャンは『承知致しました』と一言告げて
ウィングパックを取りに行った。
「畜生・・何だってんだ・・。」
突然の失踪に、ゼロスは困惑を隠し切れなかった。
数時間前、別れる時は何も無かったのに。
喧嘩なんてした覚えもない。
至って普通に、クラトスはいつものように本を読んでいた。
それなのに。
目の前から居なくなった。
居なくなってしまった。
+++++++
暴走した大樹の名残が残る、荒れ果てた森。
何故こんなとこへ来てしまったのか。
ぼぅ・・っとした思考で、クラトスはその森の中を歩いた。
何も考えたくはない。
考えて、黒い思考に心を埋め尽くされたくはない。
何も考えなくていいように、なりたい。
只管に、それだけを思いながら、クラトスは歩いた。
そして目の前に大きな樹が立つ場所に立ち尽くす。
暴走した大樹が絡み、朽ち果てようとしている樹だった。
何故、そうしたのかは解らない。
クラトスは自然と、樹の根元に腰掛けた。
誰かと寄り添いあうように、その樹に背を預ける。
樹には日向の匂いがして、暖かかった。
「・・・もう、疲れたのかもしれない・・な」
小さく、そう呟いて。
クラトスは静かに目を閉じた。
何もない、虚空の心に浸りながら。
そして夢を、見た。
まどろみの中で見るような、穏やかな気分になれる夢を。
辛い事など、まるで無かったかのような程に心地よい虚無。
全てが、消えていくような感覚。
不思議と、恐れなどは無く、感じるのは優しい喪失感。
このまま全て綺麗に洗い流して欲しいと、微かに願った。
うわぁ…;;
また暗い話打ってるよこの人…(失笑)
すみません、こういう雰囲気の話が打ちやすいんです…;;
んでもってコレ、前・中・後編まであります(苦笑)
それでわ、読んで下さって有難う御座いましたv