「どこにいても・・やっぱり救いの塔は見えるんだな・・」
メルトキオにある俺さまの家のテラスでロイドがそう呟いた。
「そーだな・・ま、アレはどこからでも見えるくらい高いからな」
夜風に髪をなびかせながら相槌を打つ。
少し冷えた風が夜の静寂を増していた。
「なぁ、ゼロス…」
二人の間に少しだけ流れた静寂を打ち破るように、ロイドが言葉を切り出す。
「ん〜?何かな?ロイド君」
少しだけ軽い口調で問い返してみる。
「…いや、なんでもない」
ロイドは苦笑して自分が放った言葉を打ち消す。
「そういわれると逆に気になっちまうでしょーが。」
その言葉を消すようにまたおどけた口調で言う。
多分、今ロイドが言おうとした言葉は俺サマに『傷』を与えるものだから。
ごめんな?
きっとロイド君にとっては大事な言葉だったんだろうけど・・俺はその言葉を
今はもう聞きたくないんだ。
決心を鈍らせたくないから。
「風が出てきたな・・もう部屋に入って休むとするか〜」
「・・そーだな。あ、ゼロス!」
部屋に入ろうとする俺さまの服の端をロイドが掴む。
そして、くしゃりとその暖かな手が俺サマの頭を撫でた。
「……おやすみ」
一瞬の事だったのに。
でも、とても長く感じた一瞬。
そして何よりも短い…一瞬。
触れた手の暖かさが、離れた瞬間に夜風で消えた。
何かを、勘付いてるのだろうか?
もしかして、気付いてるのだろうか?
その事を恐れる感情が心に渦を巻く。
単なる杞憂なのかもしれないけれど、時々恐ろしいまでにロイドは
「それじゃ、俺先に部屋に戻るからな」
ロイドはそう言って歩を進める。
自分が今いる暗がりの中から、光の灯った所へと戻ろうとしている。
まるで、この静寂の闇の中に俺を一人、置いていくかのように。
「……ッ…ぁ・…」
待って。
置いていかないで。
俺を、一人にしないで。
『自分は裏切るくせに?』
また、俺の過去の幻影が釘を刺す。
紅い雪の上に立つ、子どもの俺。
その言葉に、差し伸べようとした手が止まる。
光に、逃げようとした足が、竦む。
そうだ。
俺はこいつ等を裏切ると決めたんだ。
光を手放すと・・決めたんだ。
「…ゼロス?どうした、早く中に入らないと風邪ひくぞ?」
「…っ、…!!…ぁ…」
ロイドの言葉に意識が引き戻され、我に返る。
「お、おーぅ…解ってるって。いや〜…最近冷え込んできたよな〜…」
今頭に巡らせてた思考に勘付かれないよう、極力普段のようにへらへらと笑う。
「そうだな・・今夜辺り雪でも降るんじゃねぇのか?」
・・・・雪?
「……俺サマ、雪は嫌いだな…」
「そうか?俺は結構好きだけどな。シルヴァラントじゃ降らなかったし。」
「精霊が…セルシウスがそっちにはいなかったからな。」
適当に言葉を返しながら、震え始めた手を必死で隠す。
俺さまはいつまでたっても弱いなぁ・・あの日のことをまだ引きずってるなんてよ。
あれから随分と時間はたったのに・・未だに耐える事も、受け流せる事も出来ずにいるんだ。
後悔なんて、生れ落ちた日の事からしてるのに。
今更・・なのに。
「なぁ、ロイド君・・」
「ん?なんだよ」
何も知らない目で、見つめ返される。
「俺さま、なんか眠れなくなっちゃった。…眠れるまで相手してよ。」
「別にいーぜ?お前、寝ないとまたぶっ倒れちまうからな」
そう言って、笑うロイド。
この優しさに甘えるのもあと僅か。
俺は、俺が今まで生きてきた時間の為に・・お前とは違う道を選ぶんだから。
この日で・・お前に寄り添うのを・・最後にするよ。