ねぇ、俺を見てよ。

 

俺はちゃんとココにいるよ。

息もしてる。

腕だって、足だって動くんだ。

 

人形扱いしないで。

触ってよ。

俺も皆と同じように温かいよ?

 

俺の話を聞いて。

嘲笑ばかり与えないで。

 

俺をこんな所に閉じ込めないで、息が苦しい。

何でも言う事聞くから。

いい子でいるから、ちゃんと神子のお仕事やるから。

ねぇ、嫌わないで。

俺を置いていかないで。

 

 

セレスが泣いてる…。

きっとまた苦しんでるんだ。

誰か、見に行ってやってよ。

この足枷を取って・・ねぇ、セレスがまだ苦しんでる。助けて・・助けてやってよ!!

俺のせいで苦しんでるんだから!

 

 

俺が皆の分まで苦しむから・・・・だから・…

 

 

だから、誰かここから出してよ!!!

 

 

 

+++++++++

 

「大丈夫か?…随分と魘されてたぞ?」

「あ・…ロイドか・・」

 

藻掻くように、苦しんでいた。

目が覚めた今でさえ、まだ息苦しい。

額に当てられたロイドの手が冷たく感じる。

そうか…俺サマ、熱だしちゃったんだ・・。

 

「やっぱ最近お前どこか変だぞ?今日はここで休んどくか?」

ロイドが心配そうに濡れたタオルを額に当ててくれた。

ひんやりと冷たいソレは、幾分か落ち着かせてくれた。

「ん〜…そりゃ勘弁。こー見えても俺サマ、結構身体は強い方だし。それに、休んでなんかいられないっしょ。」

苦笑しながらそう言うと、ロイドはまた険しい顔した。

「弱ってる奴が一緒にいる方が足手まといだ。…今日は寝てろよ、な?」

何気なくきっつーい一言を言いながら最後に優しい言葉をかけるのは反則でしょ。

文句も何も言えなくなっちゃう。

こんな弱い奴なんてさっさと置いて行ってもいいのに。

でもそんな事が出来る訳がないんだよなぁ、うちのリーダーさんは。

 

 

「今リーガルがリゾットを作ってくれてるから…ちゃんと飯食って寝ろよ?」

 

そういや最近まともに飯を食ってなかったなぁ…。

食べる気がしなくて、代わりにずっと眠ってた。

「最近疲れやすいのよ。俺サマ、デリケートだから。」って冗談半分に聞えるように皆に言って。

 

 

小さく、丸まって…眠る。

 

小さい頃からの癖。

まるで、自分を守るかのように、自分を慈しむかのように。

こうやって。

小さく丸くなって眠る。

 

 

 

深く眠ってる時は夢を見るというけれど、その夢は起きた時にはもう消える夢で。

逆に浅い眠りの方が夢を見た時その中身を覚えてる。

だから、昼間は人知れず自分を苛め抜いて、深い眠りにつけるようにした。

疲れて、泥のように眠った方が、目覚めは幾分かマシだし。

 

 

 

「何か欲しいものとかあるか?」

 

横になってると、隣に座っているロイドが何度もそう尋ねてくる。

そんな甲斐甲斐しさが嬉しくて、つい甘えたくなる。

 

「ん〜…窓、開けて・・ちょっと暑い・…」

「解った」

「・・お水ちょーだい…」

「ホラ」

「もう窓閉めていいよ・・」

「ん。」

 

そんな事を暫くしていると、何だか笑いが込み上げてきた。

「何笑ってるんだよ」

「だってさぁ〜・・ロイド君、面倒見良すぎ。」

そう言うと、ロイド君は笑ってる俺様の汗で濡れた額を拭いてくれた。

「気持ちいい〜…」

「濡れタオルだからな。でも、ちょっと水が温くなってきてる。」

桶の水を触りながら、ロイドが呟く。

 

違うって。

触ってくれてるのがロイド君だからなの。

 

そう言いたかったけど、喉が掠れてきて言えなかった。

 

「ゼロス、ちょっと桶の水取り替えてくるから。ちゃんと寝てろよ?」

「動ける状態ならとっくに動いてるってば。…俺サマはイイ子だからちゃーんと寝てまーす」

桶を持ってドアノブを捻るロイド。

手振ってその後姿を見送った。

 

一人、残された途端に冷えたような室内。

 

窓は見たくない。

きっと見たくも無い雪が降っているだろうから。

 

じっと、何も無い天井だけを見つめていた。

 

 

(今日のはいつもはあんま見ない夢だったな〜…大抵は・・あの夢なのに・・・・)

 

 

赤い雪の夢。

 

でも、今日の夢は。

 

 

(夢は深層心理を映し出すってゆーしな〜…)

 

何も出来ず、ただ、毎日を怯えていた頃の自分。

 

(今思うと・・反吐が出る・・昔の俺。)

 

泣き叫ぶ事も出来ず、助けを求める事も、何も。何も。

セレスが苦しんでたことを知っても、何も出来なかった。

神子として生かされ、見えない何かに雁字搦めにされてた。

 

強くなりたかった。

全ての苦痛に耐えられる位には。

でも、実際は耐えられる程の圧力じゃなかった。

懸命に、耐えて、我慢して、人知れず泣くことも出来なくて。

無く暇なんて無かったから。

 

俺が苦しむ度にセレスも苦しんでた。

 

いつしか俺は、何にでも耐えられる強い身体を、心を欲しがるのをやめた。

欲しがっても、到底俺には手に入れられるものじゃないと悟ったから。

だから、受け流す事を覚えた。

 

笑って、道化を演じて、苦しい事なんて何も無いという見せ掛けの仮面をつけた。

そうやって受け流していけば、生きていけるから。

 

 

 

「さみぃ…」

急に悪寒が走り、ふと窓を見ると、少しだけ開いていた。

「どーりで・・寒いわけだ」

どうやらロイドは鍵まで閉めていなかったらしい。

風で少しばかり窓が開いていた。

 

わざわざ閉めに行くのが面倒だったので、寝てしまおうと思ったが、
やはり一度寒さを感じてしまったら寝つけなくなり。

結局は、ベットから降りて閉めに行く羽目になった。

 

 

「めんどー…ってロイド君、鍵くらい閉めていってよ〜…気付かず寝てたら俺サマ凍死しちゃうって…ば・・」

 

 

 

 

 

窓の外。

予想通りの白い世界。

それだけならまだ、よかった。

 

目に映ったのは、紅い子供。

 

 

血に塗れた、紅い・・自分。

 

 

 

身体が、震えている。

白い雪と、自分。

 

あの日の光景がフラッシュバックして・・眩暈がする。吐き気も込み上げてくる。

 

子供は笑っていた。

血に塗れたままの姿で。

 

 

 

『・…今、幸せ?』

 

問われた言葉が、胸に突き刺さる。

 

『ロイド達と一緒にいて、幸せ?』

 

当たり前だ、と言おうとして、思わず言葉を止める。

これは、言っちゃ(・・・・)いけない(・・・・)言葉(・・・)

 

『そう、幸せなんて感じちゃ駄目なんだよ・・。幸せになる権利なんてないんだ。
沢山の人が死んだんだ、皆・・俺達の為に不幸になったんだから。』

 

「解ってる…」

 

『・・解ってない。…自分の心に他人を入れようとしている癖に。幸せになろうとしてる癖に!』

 

「…ッ!!」

 

『逃げて、今まで生きてた癖に。不幸にした人達を不幸にしたまま自分は目の前の
幸せに逃げようとしているの?・・結局は、また裏切るんだ。子供の頃の自分を!!』

 

「ちが…っ」

 

『何が違う?クルシスに加担してまでいるくせに、結局は何もできないんだろ?
摘めそうな目の前の幸せを逃した
くないんだろ?自分だけが幸せになろうとしても、
結局はまた周りを不幸にさせてしまう癖にさ!!』

 

「違う…」

 

『許されると思ってる?何人もの屍の上に生きてるのに。ねぇ…俺を助けてよ・・。
苦しいよ。今のお前が何も解決
してくれないから・・俺は・・・・苦しいままだよ。』

 

「…………」

 

『俺達は、目的を果たすまでは・・幸せになる権利なんて・・ないんだよ』

 

「わかっ・・て…る・・・・」

 

『もう少し・・だから。それまで・・・・・』

 

「うん・…大丈夫・・ちゃんと・・やるから…」

 

 

 

 

自分に、また、嘘をついた。

 

 

ただひたすらに。

 

死にたいと・・・願う。
この苦痛から逃れられるのなら。

 

だからお願い。

誰か、俺を・・殺して下さい。


ゼロス君死亡ルート!!(決定)
このままロイドとラブラブしてもいいかな〜と思ってたんですがやっぱり死亡ルートのゼロスが好きなので
(酷;)こちらに変更v不幸が映える人間って凄く心理描写打ちやすいですね!(え)
あ、因みに子供ゼロスはゼロス自身が幻覚なので(当たり前だろ;)ドッペルゲンガーではないです(笑)

それでわ、読んで下さって有り難う御座いました