「ゼロス、これ、やる。」
そう言って渡されたのは熊のぬいぐるみ。
「は〜・・なんだろーね、コレ…」
ベットの上に寝転びながら、ゼロスが呟く。
「こ〜んな年季の入ってそーなぬいぐるみ、貰っても仕方ないってのにさぁ…」
ロイドから手渡されたぬいぐるみは、結構古びていて、所々縫い直した後があった。
「プレゼント・・にしてはボロっちぃしな〜・・ハニーも一体何考えてんだか。」
ぶつぶつと文句を言いながらも、ゼロスはそのぬいぐるみを抱き上げてる。
誰か他の人間から渡された物だったなら気兼ねなく捨ててしまえるのに。
自分に渡した相手がロイドだからそれが出来ない。
…何を貰っても、絶対に捨てられやしないのに。
でも、これのプレゼントは正直、対処に困るわけで。
「ハニーってば何考えてるんだろ〜ね。」
そう言いながら、ぬいぐるみの鼻先を突付いてみたりした。
そういえば。
小さい頃、こういうぬいぐるみを抱いて眠ってたっけ。
少しずつ、まどろみながらゼロスは思った。
一人でいつ殺されるかもしれない恐怖に怯え、眠れない日々の中。
誰かに縋りたくても出来なくて、代わりに自分よりも大きなむいぐるみを抱いて眠っていた幼い頃の自分。
誰か傍に居て欲しかった。
こうして、自分もこのぬいぐるみのように抱きしめて欲しかった。
一人ぼっちが寂しくて・・堪らなかった。
++++++++++++++
「・…ロス、ゼロスってば!」
「んぁ?!・・って・・なんだよ〜・・脅かすなよロイド君〜。」
急に聞えた声に驚き、思わず飛び起きる。
どうやら何時の間にか眠っていたらしい。
窓の外が真っ暗だった。
「飯。皆待ってるぞ」
そう言って、ロイドはゼロスの腕を掴んで立たせようとする。
だが、昔の事を少し思い出していた為か・・気分が優れなかった。
「ん〜…俺サマ何だか今日はお腹空かないというか…。悪いけどさ、リフィル様達にそう言ってくれない?」
「え?何言ってんだよ。飯食わねーと明日持たないぞ?」
「それは解ってるんだけどさぁ〜・…何かね、お腹の調子が良くないのよ、俺サマ。」
正直、ロイドからのお誘いでも今は食餌を取る気分では無かった。
腹痛と偽って、食餌を拒否することにした。
「う〜ん…じゃ、後で俺が消化にいい物作って来るから。それまで寝てろよ。」
「はーいは〜い…いい子でちゃんと寝てますよ〜」
言われた通りにベットに再度寝転び、ひらひらと手を振ってロイドを見送る。
『行かないで。』
そう言いたい気持ちを押し留めるように、へらへらと笑いを浮かべながら。
「あ。そうだ」
「?」
不意に、ドアノブに手をかけたロイドが何かを思い出したように振り返った。
「さっきやったぬいぐるみ・・アレと一緒に寝るとよく眠れるぜ?」
「さっきのって…これ?」
古ぼけたぬいぐるみを手にとり、ロイドに見せる。
「そう、ソレ。」
ぬいぐるみを見て、笑みを浮かべるロイド。
ゼロスは、ロイドのこの子供っぽい笑顔が堪らなく好きだった。
「・…ところでサ、どうしてハニーはこれを俺にくれたの?」
ぬいぐるみを抱きかかえながら、聞いてみる。
何故、このぬいぐるみをくれたのか。
そこにある気持ちは何なのかと。
すると、帰ってきた答えは驚くもので。
「それさ、俺が小さい頃に母さんから買って貰ったやつなんだよ。」
「・・・・え・・」
今は亡き母親から貰った品…つまりそれは…
「形見じゃねーかよ!!」
思わず飛び起きて声を荒げてしまうゼロス。
「ん?そうだけど?」
しかし、当の本人は『それがどーした?』と頭に疑問符をつけた表情で。
「〜〜〜…ッ!!…いいのかよ、そんなモン人にやって。」
「いいからやったんだろ?」
「だからって…、もういい。俺様、何か疲れた…」
何時もと変わらぬ調子のロイドに何だか焦る自分が馬鹿らしくなってきて、ゼロスは深い溜息をついた。
「これじゃ天国にいるロイド君のお母様も浮かばれないでしょーね…」
ぬいぐるみを抱きしめ、寝転ぶ。
すると、ロイドがゼロスの寝転んでいるベットに近づいて来た。
ギシリ、とベットが軋んだ音を鳴らす。
「…それ、さ。俺がまだ幼児の頃にクラトスと母さんが買ったものなんだって。」
告げられた言葉に、一瞬、ゼロスの目が見開く。
だが、すぐにぬいぐるみに顔を埋めた為、ロイドには気づかれていないだろう。
「・・・・そんな大事なモン俺様なんかにやっちゃ駄目でしょーが・・ハニーのお馬鹿・・」
「いーんだよ。どうせそのこと知らされたのって最近だし。」
ポン、とロイドの手がぬいぐるみの頭を撫でる。
「俺がこれを持ってたら、クラトスが教えてくれたんだ。何でも、店に飾ってあったこのぬいぐるみを
全然離そうとしなかったらしくてさ…母さんとクラトスは困り果てて。結局母さんが買ってくれたんだって」
顔は見えないけど、きっとロイドは笑顔で語ってる。
とても、嬉しそうな声だから。
「んで、片時も離さずにずっと持ってたって訳。よっぽど俺このぬいぐるみ気に入ってたんだろーなぁ…」
「……じゃあなんでこれ、俺サマなんかに渡したの?」
そんなに大事な物なら、ずっと自分で持っていればいいのに。
俺サマだったら…大事な物を何一つ手放せないのに…。
すると、ロイドの手がぬいぐるみからゼロスの頭に伸び、優しく赤い髪を撫でた。
「何となく・・ゼロスに持っていて欲しかったんだよ。最近あんま寝れてないだろ?
それ抱いて寝るとよく眠れるんだぜ?俺が保証するんだから、絶対だって!」
そう言いながら、きっとロイドは無邪気に笑ってる。
俺様には到底真似できない、笑顔。
「馬鹿だねぇ…ホント、馬鹿。どこの世界に大の大人がぬいぐるみを抱いて寝るってゆーのさ…」
大事な物は自分で守らなくちゃいけないのに。
いつ裏切るか解らない俺なんかに渡しちゃってさぁ…
そう思ったら、なんだか泣けてきた。
どれくらいロイドのことが好きなのかが嫌でも自覚してしまって…涙がでる。
眠れないあの日々の夜、ロイドが居たらどんなに心強かっただろう?
そう思ったら、ぬいぐるみが涙で濡れてきた。
「俺もさ、寂しい時、眠れない時とかそれを抱きしめて寝てたんだぜ?
子供かもしれねーけど・・何だか安心するんだよな、そういうのって。」
「・・・・・そ、だな・・」
このぬいぐるみはハニーにとって、あの時の俺のぬいぐるみと同じ。
一人きりの寂しさを、紛らわせて暮れる存在。
「…何だかハニーの匂いがする〜…」
そう言って、少し笑ってみる。
「小さい頃からずっと持ってたからな」
自分とは違った、日向の暖かな匂い。
明るくて、どこまでも純粋で無垢な存在。
「・…ありがと・・ロイド君・・」
「ん。」
また、一筋涙が出て・・頬を濡らした。
ロイゼロでほのぼのラブ目指した筈が…;;(撃沈)
どこでどう間違ったかロイ←ゼロで微妙に悲しげな感じに;(何故?;)
読んで下さって有り難う御座いました★