■父の日。


父の日。

 

それは日頃お世話になっている父へ感謝の気持ちを表す日。


「うぁ〜・・何をやればいいんだよ・・・」

ロイドは頭を抱え、必死に悩んでいた。


「なぁ、こういう時は何をすればいいんだ?」
 

「僕に聞かないでよ。・・したことないんだからさ」

読んでいる本から目を離さずに、ジーニアスが答える。

「俺サマに聞いても無駄だぜ〜?俺サマもしたことないしな」

暇を持て余すかのように自分の髪を弄りながら、ゼロスもそう言った。

 

「アタシは…おじいちゃんが親代わりだったから…敬老の日しか祝ったことがないねぇ」

『その日はいつも新しい和服を拵えたりしてたね』と付け足すしいな。

 

「私の父は…このような行事を好まなかったのでな。すまない、力になれなくて」

料理をしていたリーガルはそう言って済まなさそうに苦笑した。

 

「……私は…子供の頃やったきりなので。その時はアリシアと一緒に肩叩きを。」

懐かしげに目を細めながら、プレセアはそう言った。

 

「私は…お父様にお花を贈ってたなぁ…。あ、私も何か贈り物をしなきゃ。」

にこにこと微笑みながら、コレットが言う。

 

「私はジーニアスと同じよ。…というより、私の場合、誕生日すら祝えないような
状況で生きてきたから……」

苦笑しながら、目の前にある明らかに毒物関係の匂いを醸し出している鍋を
お玉でかき混ぜるリフィル。
傍には一緒に作っていたリーガルが青い顔をして呆然としていた。

 結局、十人十色の意見を聞いたが、参考にはならなかった。

 

「うーん…ダイク親父には毎年工具を贈ったり肩叩きをしてたけど…・問題はクラトスだよなぁ…」

 

剣や防具は間に合ってるし、花…は買うのが照れ臭いから嫌だし。
かと言ってそこら辺の野花を摘んで持っていくのも何だか味気ない。

というより、まず何をやれば喜ぶのかがイマイチわからない。

 ついでに言うと趣味もなさそうだし、好きな食べ物も解らない。
とりあえず、解ってるのは俺と同じでトマトが嫌いということだけ。

 
「何を贈ればいいんだよ・・・・」

途方に暮れながら、ロイドはレアバードに乗って適当に町をうろつく事にした。

「親父には今年は…そうだ、ガーデニングに嵌ってるって言ってたから…
今年は
大き目の植木鉢とか贈るか。」

花屋の近くを通り、中々洒落た植木鉢を見つけ、購入した。
これなら男が花屋に寄っても何ら恥ずかしい事にはならない。

 (クラトス・・・何をやれば喜ぶのかな・・・)

そうこう思案するが、やはり思いつかない。

  

* * *

「ただ今―。親父、鉢植え買ってきたぞー。」

「なんでぇ。今日はお前ぇ一人か?」

花に水をやるダイクの姿に、ロイドは笑う。いつもと同じで安心したのだろうか。

「あぁ。今日はホラ、父の日…だろ?だから今年も何か贈ろうかな、と思ってな」

そう言って、『ホラ』と植木鉢を差し出す。

「ほぅ。中々洒落た鉢だな。ありがとよ。」

「だろ?あ、ついでに種もいくつか・・・・」

気に入ってくれたこともあり、ロイドは照れくさそうに笑いながらポケットに手を入れる。

「ロイド、俺の事を気にかけてくれるのはありがてぇが…ちゃんとクラトスさんにも
何か贈ったのか?」

「あー…贈るつもりではあるんだけど…よ。その、何を贈ったらいいのか解んなくて…」

痛いとこを突かれ、ロイドはしどろもどろに言葉を濁す。

「…クラトスさんにさっき買い物を頼んだからな、もうすぐしたら帰ってくるぞ。」

ロイドが旅をしている今、クラトスはダイクの家に居候していた。
しばらくはアンナの傍に居たいと、本人の要望で。

「…母さんだったら・・わかったのかなぁ…」

ロイドはそう言いながら、アンナの墓を見詰めた。

 

 * * *

「ダイク殿。…おもてにロイドのレアバードがあるが…」

買い物から帰り、クラトスが荷物をテーブルに降ろしながらダイクに尋ねた。

「あぁ。今二階の自室に篭もっとるぞ。何でも、『集中したいから邪魔するな』だと」

「そう…ですか」

 (…一体何をしているのだろうか?一人で帰宅するからには何か特別な用事でも……)


そう、考えていると、視界に大きめで木製の植木鉢が目に入る。

「あぁ、それはロイドが買ってきてくれたんだ。…ホラ、今日は……」

「……あぁ、確か父の日…」

カレンダーを見て、ようやく気付く。
生まれてこのかた、そう言った行事を祝った事が無い為、

クラトスはその日の存在を実感したことが無かった。

「毎年こうやって律儀に何かくれるんだ。アイツは。」

「そう…ですか…」

嬉しそうに話すダイクに、クラトスは何処か羨ましげに、少しだけ微笑んだ。

「……アイツはついさっきまで悩んでたぞ。お前さんにあげるプレゼントは
何をやればいいのか、と。悩んで、悩んで…で、今しがた部屋に入っていったんだ。」

「私に…。」

父親らしいことは何一つ、してやれてなかったというのに。

クラトスはダイクのその言葉に、ジ…ン…と胸が熱くなった。

そんなクラトスに、ダイクは嬉しげに微笑んだ。

 

 * * *

「あの…さ。急いで作ったから…サイズ…とか違ってたら恥ずかしいんだけどよ…、その…」

 

真夜中。
ロイドはクラトスを連れて母の墓の前へと行った。

「今日、父の日だろ?…だから、その…クラトスは俺の父さんだから…」

珍しく、歯切れの悪い話し方をするロイドに、クラトスは愛しさを感じて微笑んでしまう。

「わ、笑うなよ!…で、その…コレ!」

恥ずかしげに、しかし力強く渡された小箱。
クラトスはそれを受け取り、開けた。

「これは…」

中に入っていたのは、小さな細工が施されたシンプルでいて綺麗な作りの金色に輝く指輪だった。

「花とかも考えたんだけどさ、確か父の日はバラだってコレットが言ってたから…
それは恥ずかしくて買えなかったんだよ。…で、それにした。
時間があんまりなかったから綺麗な装飾細工が出来なかったけど…それでも一応一生懸め…」

「……ありがとう。ロイド」

照れ隠しにいつもより口が回るロイドを気遣い、クラトスは微笑んでお礼を言った。
その笑みに、ロイドは顔を紅潮させて笑った。

「…ところで、何故指輪なのだ?」

「あぁ、それは……」

クラトスの問い掛けに、ロイドはポケットに手を入れて何かを取り出す。
そしてそれを墓石に埋め込んだ。

 「……母さんとお揃いの指輪にしたんだ。」

「……!」

 

「俺の推測でしかないんだけど…クラトス、結婚指輪とかしてなかっただろ?」

言いながら、ロイドはクラトスの左手を見る。

「…あの頃は…そんな余裕が無かったからな…」

苦笑しながら、クラトスは左手を右手で覆った。

 

いつも、露店の前を通る度にアンナは横目で指輪を見ていた。
そして諦めたような瞳をし、少しだけ、悲しげに目を細めていた。

私が『買ってやろうか』と言っても『そんな余裕は無いでしょう?』と言って笑って遠慮していた。

本当は凄く欲しかったに違いない。

私も、買ってやりたかった。

アンナの心から喜ぶ顔が見たかった。

 

「だからさ、父さんと母さんに俺から。」

「…ロイド…」

 

へへ…と笑うロイド。

そして月夜に光る二つの指輪。

 

「……ありがとう…」

指輪を堅く握り締め、クラトスは泣きそうなくらいの微笑を浮かべて指輪を
握り締めた拳に口付けをした。

これ程嬉しいと感じた贈り物は…初めてかもしれない。

 

  「…でもさ、俺、クラトスが好きだから自分でやっといてちょっとヤキモチ焼いてる。」

「何だ。それは…」

子供みたいに頬を膨らませるロイドに、クラトスは少し困ったように苦笑した。

「確かにさ、クラトスは母さんと夫婦だけど…俺はクラトスの恋人でもあるだろ?
嫉妬しない方がおかしいって。」

「ではどうすればいいのだ?」

甘えるように、背中に圧し掛かってきては頬を寄せるロイド。

「……これもつけて。」

「?」

シャラリ、と耳元で鳴ったそれを受け取り、見る。

「…ブレスレット?」

「そ。邪魔にならないような鎖タイプのヤツ。お揃いでつけようぜ!クラトス」

屈託のない笑みを浮かべながら、ロイドはつけている方の腕を見せた。
ロイドがつけているのは色違いの金色の鎖。

「クラトスは金色って感じじゃないからさ、銀にしてみた。白銀の方がしっくりくるけど…
それは指輪に使っちまったし。」

言いながら、ロイドはクラトスにブレスレットをつけた。

「……愛してる。クラトス」

囁かれた言葉に、アンナの墓前である事を考え数瞬、返事に戸惑うがクラトスは苦笑するだけで。

「・・・・ロイド・・私もだ」

そう、短く返答すれば、ロイドから唇を重ねられた。

  

 

(…アンナ。)

私達の息子は。
私達が望んでいた以上に・・・・優しい子に育っていたぞ。

 

 

薄く微笑みながら、クラトスはそう心の中で今は眠る亡き妻に語りかけた。

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ロイクラ?クラアン??;(謎)
ま、まぁとにかく遅らばせながら『父の日』小説UPです;
現在はフリー配布を行っていませんので、お持ち帰りは無しの方向で;;

それでわ、読んで下さって有難う御座いました