[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

■My dear baby, <前>


ある、何の変哲も無い昼下がり。

驚きというものは突発的にやってくるものだと、皆が思った。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・く、クラ・・・クラトス・・・??!

驚きに声を震わせ、凝視するロイド。

視線と、向けられた指先の先にはクラトスと・・・・

 

「・・・・・天使サマ、やるねぇ~。隠し子?」

「違う!」

 

クラトスの腕に抱かれた、小さな赤子。

 

 

* * * *

 

「サイバックの路地裏に捨てられていた、と?」

「そうだ。母親をが近くにいないかと探しはしたのだが・・見つからなかった。」

焚き火の傍で赤子を抱いて座るクラトス。
腕の中に居る赤子はすやすやと可愛らしい寝息を立てていた。

「時々いるんだよ。そういう無責任な親。・・・まぁ、アタシもガオラキアの森に
捨てられていたからねぇ・・。ま、おじいちゃんが拾ってくれたからよかったんだけど」

赤子の手を、指先でちょんちょんと突付きながら、しいなが苦笑する。

「で、どうするつもり?赤子が飲めるようなミルクはなくてよ?」

「しいなー、出してやれよ」

うひゃひゃひゃ・・と笑いながら、ゼロスが言うと、

「な、何言ってんだい!!出るわけ無いだろ!!!

ゼロスの下卑た笑い声とその言葉にしいなは顔を真っ赤に茹であがらせながら怒鳴る。

「しいな。騒ぐな。・・・起きてしまう。」

「あ・・ごめん・・」

「クラトスさんってこーしてみると本当に『お父さん』って感じだよねー。」

「うん。赤ちゃん、安心し切って寝てるもんね」

ジーニアスとコレットの会話に、皆が思わず微笑んで頷いてしまう。


「そう、か?」

照れているのか、ぎこちなく問うと、

「いつもとは・・表情が違う。今の貴方は柔らかいのだ。子を慈しむ親のように」

リーガルがそう答え、クラトスはその言葉に再度照れたのか、少しだけ微笑んだ。

「ねー、ロイド。いつまで一人でそっちにいるのさ。」

「う、煩ぇ・・・別にいいだろ?!」

一人、皆から離れた位置で剣の手入れをしてるロイドに、ジーニアスが
呆れ混じりに話し掛けた。

「ロイドさんは今ジェラシーを感じているのですか?」

「じぇらしー?」

「嫉妬、だよ。」

ロイドの無知さに、ジーニアスが半分小馬鹿に、そして半分呆れたように教えてやる。

「し・・っ!?・・・違うって!そんなんじゃ・・・・・・・ねぇよ」

「全く…子供なのね」

そんなロイドに、リフィルは呆れたように溜息をついた。

 

 

「そうだ。クラトスは戦闘から外れた方がいいんじゃないのかい?
子供を持ったまま戦うのは難しいんじゃ・・・」

赤子の授乳の為に一行が木陰で休憩していると、不意にしいなが提案してきた。
だが、クラトスは『いや・・』と首を横に振る。

「ロイドが赤子の頃は常に追っ手に追われて戦闘続きだったからな。」

そう答えながら、クラトスは飲ませていた哺乳瓶を座っている切り株の上に置いた。

「だが、私はいいとしてもやはりこの子に負担がかかる。・・・やはり暫く外させて貰おうか」

そして肩のところへ赤子をうつぶせにすると、ポンポンとその背を叩き始めた。

「・・・・・・手馴れてるねぇ・・・」

育児の経験があるといえど、見た目に反して意外なくらいに赤子の世話慣れ
しているクラトスに、ゼロスは苦笑した。


「・・・げぷ・・っ・・・」

「・・よし」

叩いていた赤子の背をさすりながら、クラトスはおしゃぶりを咥えさせて抱きなおす。

「ロイドもあんな風に面倒みてもらってたんだね~・・」

コレットが微笑ましそうに言う。

「・・・・・・ということはいつも俺は背中におぶされている状態でクラトスが倒した
敵の死に様を見ていたんだな・・・・」

赤子を背負い、剣を振るクラトスの姿を思い出し、ロイドは失笑する。
その当時は仕方なかった事とは言え、どう見ても赤子の情操教育に悪い。

「あ、だからロイドは赤が好きなのかもしれないね♪」

!!?・・・・コレット・・・・っ」

にこにこと、とんでもない発言をするコレットに、皆は顔を引き攣らせてしまう。
彼女は時々黒い発言をする時があると解っていてもやはりこの外見と、
ほのぼのした雰囲気を持つ彼女の
見た目からでは信じ難いのもので。


「し、しかしまー…子供連れで旅ってのもどうよ?!」

場の空気を一転させようと、慌ててゼロスが話を切り替える。

「あんまり言えた台詞じゃないと思うだけれど、ね・・」

「~~ッ、姉さん!」

「あ、あら聞こえてたの?ごめんなさい、ジーニアス」

子供扱いした姉に怒声を飛ばす弟に、姉は取り繕うように苦々しげに笑った。

「まぁ、でも早い所親を探さねばならないな。この子にも危険が及ぶ」

リーガルが心配そうに赤子を見詰めた。
すやすやと眠る子供を抱きながら、クラトスも頷く。

「でも・・・・」

不意に、リフィルが口を挟む。

「その子、狭間の人間だから・・・やっぱり捨てられたのかもしれないわ」

悲しげにリフィルが呟く。

「・・あ・・・」

その言葉に、皆が一瞬言葉を消した。

ただの人間。

ただのエルフならまだしも。

この赤子はどちらともいえない、間の子。
もしかしたら、この子の両親は世間の重圧に耐えかねて捨てたのかもしれない。
このご時世ではよくあることだった。

「本当に・・勝手だわ・・」

そしてその経験のあるリフィルの言葉はそんな世の中に向けたものなのか、
それとも自分を捨てた親に向けての言葉だったのか。

皆は何も言わなかった。

「とにかく、親を探そう。・・結果はどうあれ・・」

静かに、クラトスが眠る赤子の頬を撫でながら言う。
一児の親として、子を捨てる親は許せないといった思いが皆に伝わる。

「クラトス・・・」

「・・・・・・・・・」

無言ですやすやと眠る赤子の顔を見るクラトスに、ロイドはただ言葉を
詰まらせるだけだった。

 

* * *

「確かここいらで見つけたって言ってたよな~」

「あぁ。この辺の植え込みに―――・・・」

子供をリフィルに預け、ゼロスとロイドと一緒にクラトスは親探しをしていた。

「アンタ等何してんだぁ?」

すると、ガラの悪そうな男が一人、近づいてきた。

「探しもんか?でもそこら辺はあんま見ない方がいいぜぇ?ヒッヒ・・」

下卑た笑い声をあげながら、男が笑う。

「どういう意味だよ?」

怪訝な面持ちでロイドが男に尋ねる。

「この前ある人に頼まれてそこに赤子を捨てたからよ。今頃壊死してんじゃねぇのか?」

「・・・・・・・・!!!」

今の言葉にクラトスの双眸がカッと見開かれる。

「っと、落ち着けって天使サマ。・・・・・・ロイド君もな。」

「・・・・・・・・っ」

「・・・・・・・だって・・!」

剣の柄に手を当て、抜く寸前。
ゼロスが上から手を置き、二人を静止させた。

 「マジで?酷いことする親がいるもんだな。・・ちょっと詳しく聞かせてくんない?」

ゼロスはへらっと笑みを浮かべて男に聞く。
訝しげにゼロスを眺めていた男だったが、ゼロスが小金を握らせると目の色を変える。

「へへ・・いいぜ~?」

どうやら男は酔っているらしい。上機嫌でその話を語り始めた。


「とある貴族の男がよ、遊びでハーフエルフの女を強姦したら当たっちまったらしく、
その女、孕んじまってな。で、知らない間に産んじまってたらしいんだ。
で、その男の
家はそういった汚点のような行為が大層お嫌いらしく…
家を汚した女を処刑したんだ。」

どこに面白い要素があるのか、男は終始笑ったまま語る。

「で、赤子はどうしようもない。だが、ハーフエルフだから汚らわしいって
言ってここに捨ててくるように言われたんだよ。
これでも情けがあった方じゃねぇか?捨てるだけなら誰か拾うかも知れねぇだろ?
まぁ、あんな穢れた存在を拾う奴がいればの話だがな。ヒヒヒ・・・」


言い終わり、手にもっていた酒瓶の中身を煽る。

「随分とエゲツねぇ事するんだな~・・」

「俺は何でも屋だからな。死体の処理から買い物まで仕事は幅広いんでね」

それなりに知名度はあるのか、男は自慢気に答えた。

「だからって殺すのはどうかと思うけどな~・・俺サマ。」

「ハーフエルフなんざ死に絶えてしまえばいいんだよ。ある意味俺はそれに
貢献したってわけだ」


「・・・・・・・・・ッ!!!!!!!

ギリッ・・と強く唇を噛み締めるクラトス。

怒りに戦慄き、街中だというのにも関わらず、今にも剣を抜いてしまいそうだった。

 

だが。

 

「・・・・ッ・・ぅぎゃッ!!!!!

 

突然響いた男の悲鳴に驚き、目を見開く。

「ちょ・・!!・・・あーぁ・・やっちゃったか・・・・」

ゼロスも驚きはしたが、ある程度予想していた事だと言うように、苦笑して後頭部を
掻き毟りながら男を殴り飛ばした赤い服を見やる。

「・・ロイド・・」

殴り飛ばした張本人である者の姿を見て、クラトスがぽつりとその名を呼ぶ。

「お前・・命を何だと思ってるんだよ・・!!

「・・・・・・ヒ・・ッ!!?

拳を硬く握り締め、怒りに戦慄くロイドの姿に怯えを隠せずに、男が短く悲鳴をあげる。

「馬ッ鹿だなぁ~・・・殴ってもしょうがないでしょーよ。ロイド君。
もうちょっとクールになろうぜぇ~?」

おどけた口調でロイドを窘めるゼロス。

「何言ってんだよ。・・お前だって殴りそうだっただろ。」

「・・・バレた?」

呆れながらも冷めない怒気を含ませた口調でロイドが言うと、ゼロスはぺろっと舌を
出しながら途中まで抜きかけていた剣を鞘に収めた。

そして未だ立ち上がっていない男の元へ近寄り、しゃがむ。

「なーなー。・・・・・・その貴族って誰?」

作り笑いを浮かべながら、ゼロスが男に尋ねる。

「な・・・っ言える訳ねえだろ・・!口止め料を入れた金だって貰って―――」

今、痛烈な一撃を喰らってロイド達の強さが解ったというのに、男は口を割るのを拒んだ。
相当な金を貰っているのか、それとも高い地位の貴族からの依頼だったのか。

容易に口を割らないという時点でこの男はそれなりのプロ意識があるのかもしれない。

 だが、

「はした金もらって口止めされたままここで真っ二つにされるのと、
今ここで吐いて牢にブチ込まれる。・・俺サマは慈悲深~いからな。選ばせてやるよ」

威圧感のある眼差しと、胸に光るクルシスの輝石をゼロスは男に見せると、男は一気に
さぁ…っと顔面を蒼白にしていった。

 


■■■
結構予定よりも長くなったので前後に分けました;;
今回はカプ無しだったのですが結構打てるモンですね(笑)

それでは、読んで下さって有難う御座いました