■ファーストキス(ロイド×)

「おとーしゃーん…」

 

まだまだ拙い口調で私を呼びながら。

尚且つまだ覚束無い足取りで私の元へと歩み寄ってくる最愛の我が子。

 

いくら追っ手に対し常に周囲に神経を研ぎ澄ませていても、この時ばかりは

思わず気持ちも頬も緩んでしまう。

 

ふらふらと両手を突き出したまま、ロイドは懸命にごつごつした石だらけで

足場の悪い砂利道を歩く。

本当ならすぐ抱えていつ転ぶかもしれない危険から回避させて

やりたいのだが…先日はアンナに怒られてしまった。

『子供はそうやって転びながら歩く事を学ぶのよ』と。

確かにそうだ。

多少転んでもその痛みを糧にして歩く事を覚えさせねばならない。

危険だからと甘やかしていてはこのこのためにはならないのだ。

 

・・・・・・・・だが。

 

それでもやはり心配なものは心配だ。

こんな石だらけの道で転んだりしたら大人といえど流血は免れまい。

ましてやこの子はまだ小さな幼児。

下手すると頭を打って額から血を流してそのまま―――――・・・・

 

・・・ッ!いかん、やはり危険だ!!

 

私はそう思い、すぐさまロイドの下へと駆け寄った。

だが、時既に遅し。

ロイドは足を縺れさせて地面に叩き付けられてしまったのだ。

「・・・ッロイド!!」

 

・・・今、明らかにベシャ!っと音がした。

ついでにゴツッ・・と鈍い音もした。

 

「大丈夫か、ロイド!」

 

私は必死になって我が子を抱き起こそうと近寄る。

 

だが―――――・・・・

 

「う゛〜・・・・」

 

ロイドは涙を目に一杯溜めながらも唇を噛み締めて両手で起き上がり、立ち上がった。

そしてゆっくりとまた歩を進めて歩き出したのだ。

 

「おとーしゃー・・・」

 

そして私の姿が近いことに喜んだのか、また両手を開いて満面の笑みで私の
足に縋り付いて来た。

「・・・・・・ぁ・・・」

きゅっとズボンの生地を泥に塗れたその小さな手で捕まれ、私は小さな声を漏らす。

「・・・・おとーしゃ・・」

ロイドは自分で歩き、私に触れられた事が余程嬉しかったのか。

にこにこと笑ったまま私の足に頬を摺り寄せた。

 

『子供は案外強いものよ』

 

今ならアンナが言っていたこの言葉も解る気がする。

私は軽く息をつき、その子を抱き上げた。

「よく頑張ったな、ロイド・・」

そう、誉めてやるとロイドはこの上ない笑みを見せてくれた。

 

この笑顔はアンナによく似ている。

太陽の下で笑うのが、とてもよく似合う笑顔なのだ。

 

「おとーしゃ〜・・」

「?なんだ?」

 

ロイドが何か言いたげに、私の前髪を軽く掴んできたので、互いの顔が

近くなるように抱き変えてやる。

「えへへ〜・・」

するとまたロイドは笑って、今度はその小さな手で私の頬を包んだ。

「おとーしゃ、ちゅ〜・・」

 

・・・・・少々、面食らってしまった。

まさか息子が私にキスをせがむとは思わなかったから。

いつもアンナとはしてるようだが・・・。

いや、このくらいの子供にとっては母親も父親も関係なくスキンシップとして

こう言うことを望むのだろう。

私は小さく笑った。

ロイドは相変わらず笑ったまま私の腕に収まっている。

そして手と同じように小さな唇を私の唇に寄せてきた。

 

大人とは違い、やはり小さな唇。

でも柔らかな唇。

 

やはりここは子供らしく、一瞬のキスだった。

しかし何度もちゅ、ちゅ・・と啄ばむようにキスを続けてくる。

何だか鳥の親子にでもなった気分だ。

 

小さな手が、私の頭を包む。

 

「あらあら。ロイドったらファーストキスはお父さんにあげたの?」

 

後からアンナがそう言って笑いながら近づいて来た。

「私にはいつも頬にしかしてくれないくせに〜・・ねぇ?」

アンナはぷにぷにとロイドの頬を突付きながら笑う。

「・・いつもしてるのではなかったか?」

「え?あぁ、いつもはほっぺしにかしないわよぉ〜。一応、ロイドには

『ファーストキスは大きくなってから好きな人にするものなのよ』と教えてるんだもの。」

「・・・・ぇ・・・」

「そっか〜・・ロイドはお父さんとしたかったのか〜・・お母さんにはしてくれないのにね」

「おとーしゃんがいぃ〜・・」

「ふふ・・・クラトス、よっぽどロイドに好かれてるのね」

「そ、そのようだな・・・」

 

 

 

 

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「あの頃はまだ可愛げがあったものを・・・」

 

気だるい身体を横に倒しながらクラトスは溜息混じりに呟く。

 

「アンタが言うあの頃って・・俺がまだガキの頃じゃねぇかよ」

 

ロイドは水を飲みながら言う。

「・・・ってゆーか俺のファーストキス、アンタが貰っててくれたのか〜・・

へへっ何か嬉しいかも。」

「貰った、というよりはお前がしてきたのだぞ?」

「てっきり、そこらの子供みたいに俺も母さんかと思ってたよ。

普通はそういうもんだし」

「それは親子のスキンシップであり、ファーストキスとは違うと思うのだがな」

そもそもファーストキスは意中の相手とするものだ、と付け足す。

「でも俺はクラトスとしかしたことないし。あんたしか好きになってないし。」

「・・・・・・・・・」

ロイドは水を飲み干して空になったコップをサイドテーブルに置く。

「ってことは俺の初めてはぜーんぶクラトスが貰ってんだな〜・・」

言いながら、笑みを浮かべて同じベットに潜り込んで来た。

そしてあの時と同じように手を伸ばし、クラトスの頬を包むように掴む。

「クラトス、ちゅ〜・・・」

悪戯っぽく笑みを浮かべて子供のようにキスを強請る。

「・・ロイ・・、・・・ん・・」

そして、唇を重ねる。

頬を包んでいた両手の内の片方を頭を撫でるように回してくる。

ここまではあの頃と同じなのに。

「ん、っふ・・・・」

違うのは、重ねられる熱と深く交わる口腔。

緩く唇を開いてロイドを受け入れる。

 

「多分さ、俺・・・・あの時からクラトスしか見てなかったんだと思う。」

「・・・・」

「あの頃は『父親』のあんたを。今は一人の人間として・・いや、恋人としても

アンタを好きだ。・・・・・・・クラトスは?」

ロイドは優しく鳶色の髪を撫でながら囁く。

クラトスは少しだけ、戸惑いながらも「・・・私もだ・・」と言葉を返す。

 

いつの間にか、我が子は真っ直ぐ歩けて。

こんなにも逞しく成長していた。

その過程を見れなかったことを寂しいと思う以上に、その成長は喜ばしくて。

 

「愛してる・・・クラトス・・」

 

今、私を愛してくれている。

 

アンナには悪いと思っている。

だが、それ以上に。

 

「私も愛してる・・」

 

私達は互いを一人の人間として愛してしまったのだ。



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以上、アウリオン家の息子さんの初ちゅー物語でした!(笑)
大抵のお子様は母親としてるもんですがこのお宅はお父さんだったみたいですね!
いやぁ、息子から『この時からパパを狙ってます』感が漂ってきて素敵ですなぁ。
いいね!子ロイ×クラトス!!(自分、ショタスキーですから!/笑)

それでわ、読んで下さって有り難う御座いました