■ひこうきぐも(Rピオニー+ジェイド) |
![]() 片時も、離れる事は無かった。 だから、ずっと、一緒だった。 仕事は全て自室で行った。 あの子が、私の傍に居たがったから。 ずっと、ずっと一緒。 この子は、外に出てはいけないから。 人の目に、触れてはいけないから。 だから、私以外の人間を知らない。 知らなくて、いいから。 この子も、それを望んだ。望んでくれた。 『ジェイド以外、俺はいらない』 この言葉も、あの人そっくりだと、聞く度に微笑んでしまう。 そして、私の心は悲しみに染まってしまう。 そんな悲しさも辛さもいらない。 この子は、私に愛しさを感じさせてくれる。 安らぎを与えてくれる。 ずっと、ずっと一緒。 玩具も、本も、自分からは欲しがらない。 ただ、私が傍に居ればいいと、言ってくれる。 だから、私もこの子の望み通り、ずっと傍に居る。 それが私の望みでもあるから。 「愛していますよ、ピオニー」 微笑んで、そう言えば。 彼は、昔見たものと同じ笑みを浮かべた。 何処までも、何もかも、同じ。 この安らぎの日々が、続く事を毎日祈る。 叶うことなんて、無いと知っている。 でも、祈らずにはいられない。 もし、この世に生死を司る者が存在し、目の前に居たならば。 私は迷わず、その者を討つだろう。 私から、彼を奪った者。 そして、また彼を奪おうとする者。 それが、許されざる大罪であろうと。 「ジェイド、見て!」 小さな手を泥だらけに汚して。 小さな子供は私に小さな鉢植えを見せた。 「これは?」 「花!冬に咲くんだって!な、ジェイド。これ、育ててよ!」 無邪気に微笑みながら、その子供…ピオニーが持つ鉢植えを手にする。 「いいですよ。…で、これは何の花ですか?」 「え?えっと…忘れた。」 「では、咲いてからのお楽しみということですね」 「うん!!」 何の花かは分からない、と言うピオニーは、その花の名を『ピオニー』と呼ぶ事にした。 それが微笑ましくて、私はとても丁寧にその花を育てた。 ピオニーの喜ぶ顔が、見たくて。 認めたくない、でも、彼はもうじきこの世界から消えてしまう。 音素が乖離して、他のレプリカ達同様、消えてしまうのだ。 まだ、本当に完全とはいえなかった技術に、今更悔やんでも仕方がない事は知っていた。 それでも、この子はその日まで生きている。 だからせめて、何かを残してあげたかったのかもしれない。 私は、この子の傍に居たかった。 ただ、それだけ。 + + + 「…ジェイド。眠れない。」 同じベッドの中で、ピオニーがそう呟いた。 いつもならば寝つきはいい。 だが、ピオニーは擦り寄るように甘えてきて。 「では、眠れるまでこうしていてあげますよ」 微笑み、抱き締めてやれば。 ピオニーは胸に顔を埋めた。 どんな表情で、そこに居るのだろう。 「ジェイド、大好きだよ。」 「はい、知っていますよ」 ピオニーと、私の口癖。 「ジェイド、愛してる。」 「私もです、ピオニー」 柔らかな髪に、指を通す。 「…あははっ…ジェイド、さっきから俺の真似ばっかりだ」 「仕方がないですよ。これが本心なんですから」 とても、とても安らぐ時間。 なのに、胸に引っかかるようなこの感覚は何だろう。 小さな、小さな穴。 「俺、ジェイドだけが居ればいーんだ。他は何もいらない」 「おや。新しい玩具を今度買って来ようと思ってましたのに。」 「えー!それは欲しい!…でも、やっぱりジェイドがいればいい。」 「はいはい。玩具も、私も貴方の物ですよ。ピオニー」 「…ん。ありがと。………」 「…ピオニー?」 「………」 「…眠ったのか。」 すやすやと、聞こえる寝息。 その小さな身体を優しく抱き締め、ジェイドは眠りについた。 ああ、何て幸福。 何時の間にか、塞いでいたはずの穴は、知らない内に広がっている事も知らず。 朝、起きたら。 ピオニーは消えていた。 窓際に置いていた『ピオニー』は、静かに朝日を浴びていた。 私は、残された『ピオニー』をずっと傍に置き、水を与え続けた。 あの子が、私に残してくれたものだから。 「…おや、この花…パンジーだったのですか…」 茎が伸び、葉が増え、蕾をつけ。 咲かせたのは、可愛らしい花。 あの子らしい、と苦笑交じりに微笑む。 きっと、ピオニーはこの花を知っていたのだろう。 そして、自分が消えることも。 この花に『ピオニー』と、名づけたのも、きっと。 「貴方は…本当に…」 その花びらを、優しく指で撫でる。 「確か、花言葉の本を以前…」 ピオニーが庭の花に興味を示していた頃に買った本。 それを思い出し、ジェイドはその本に手を伸ばす。 そして、ページを捲った。 「物思い、思想、思い出、記念品…純愛…あの子らしいですねぇ」 花の意味を知っていたのか、知らなかったのか。 あの子らしい花に、思わず笑みが零れる。 「あと…は…」 『私を思ってください』 『私はあなたを思う』 「…、…」 気付けば、涙が溢れていた。 動けなかった。 声も、出なかった。 ただ、ただ。 涙が止まらない。 もしかして。 もしかして。 「ピ、オニー…?」 震えた声。 貴方が消えた日から、もう涙は枯れたと思ったのに。 あんなにも、流したというのに。 ああ、私はまた。 貴方は、全てを知っていた。 知らないフリをしていただけ。 全て、全て、全て知っていた。 自分は誰なのかも。 自分が消える事も。 冬を越せないことも。 この花も。 この花の意味も。 そして、私を…全て。 愛しくて、切なくて、悲しくて、悔しくて、愛しくて、愛しくて。 暫くの間、涙が止まる事は無かった。 ■■■■■ 聞きながら打ってたのでちょっと心が引き摺られかけました。 引き摺られないように、色々感情描写は省きました。 じゃないとオイラが泣いちまわぁー!!;;(涙) こーゆー時、感情の同調をしやすい自分は困ります; Coccoの『ブーゲンビリア』のアルバムをお持ちの方、よろしければ 『ひこうきぐも。』を聞きながら見てやって下さい。 歌の雰囲気が伝わればいいなぁ…。 凄く、穏やかな曲で、切ない歌詞です。 それでは、読んで下さって有難う御座いましたv |