カラカラ、カラカラ
回る風車。
カタカタ、カタカタ
廻る風見鶏。
ゆらゆらと揺れる、木々の騒めき。
青い宙にはためくは、鳥の羽根。
海の青を映した空に、浮かぶ雲。
ああ、風だ。
やわらかな、晴れの日特有の、風。
頬に感じたそれを、目蓋を落としたまま贅沢に堪能する。
街の外れ。
街で一番高い鉄塔。
その鉄塔にある、日除けの屋根。
街で一番、高い場所。
この街で一番、風を感じる場所。
少しオイルで薄汚れた包帯を風に遊ばせながら。
少し潮風で傷んだ癖ッ毛をなびかせながら。
ギンジは全身で風を浴びていた。
「おーい、ギンジ!そろそろ中に入らねぇと風邪引いちまうぜ〜?」
梯子の下から聞こえてきた声。
ギンジは上半身を軽く捻り、声を下に向ける。
「大丈夫です!オイラ、馬鹿だから早々風邪なんて引きませんからー!」
そう言ってやると、風に乗って笑い声が聞こえてきた。
「違いねぇや!お前さんも、お前の爺さんも、二人して生粋の譜業馬鹿だもんなぁー」
届けられた声に、今度はギンジが笑い声をあげた。
だがそれは下ではなく、上に、空に向かって。
風に乗せるように軽く、明るく、笑い飛ばした。
ああ、風だ。
大好きな、空だ。
双眼鏡持ってこればよかったな。
今日は快晴だから、うまくいけばベルケンドが見えたかもしれない。
でもすぐに双眼鏡なんて要らなくなる。
だって、もうすぐ、もうすぐ。
何時の間にかまた、顔が弛んでしまっていた。
「お兄さん、ホラ、お医者様が待ってるわよ!」
「あ、あ!ごめん、今すぐ降りるから…っ」
ノエルが呼びにきた。
ギンジは慌てて屋根から近い足場に飛び降り、昇降機に乗り込む。
「…嬉しそうね?」
家路へと二人、走っていると隣で走るノエルが微笑んでいた。
その笑みに、ギンジも笑顔で返す。
「ああ!だってもうすぐ、もうすぐでまたオイラは…」
はしゃぐように話す自分は子供のようだと、自分でも思う。
「どうだい?まだ痛むかい?」
問い掛けられ、ギンジは勢い良く首を横に振る。
その仕草に、その場に居た医者とノエルが笑う。
「おめでとう。完治だよ」
その言葉に、顔が笑顔を作る。
「痛み、我慢はしてないでしょうね?兄さん、いつも無理するから…」
「してない、してない!ね、先生。オイラまた操縦席に座ってもいいんですよね?!」
「あぁ、急降下や危ない操縦さえしなければ大丈夫だろう。」
「やったー!!」
思わず、歳を忘れてはしゃいでしまう。
その様子に、ノエル達も笑っていた。
あぁ、もうすぐで。
もうすぐで、またあの空へ。
「オイラ、三号機の操縦をさせて貰うことになりました、ギンジと言います!
よろしくお願いしますね!アッシュさん!」
この人が、オイラに空を飛ばせてくれる人。
この世界を、見せてくれる人。
言葉では足りないくらいの感謝を、返そう。
どこへでも、どこまでも貴方の行きたい場所へ運びます。
それが、オイラに再び『空』をくれた貴方へのお礼の証。
ああ、自分は何て幸せなんだろう。
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アッシュが三号機を借りに来た辺りの話。
多分、その頃にはメジオラ高原での不時着事故の傷も丁度癒えてるんじゃないかって思いまして(笑)
ギンジはまた空を飛ぶきっかけをくれたアッシュに凄く感謝すると思う(萌)
多分、事故がなければ本当はルーク達が乗る二号機のパイロットはギンジだったかもしれないし。
それでは、読んで下さって有難う御座いましたv
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