■水鏡(ヴァン×ギンジ) |
今となっては、自分とあの人との関係は誰も知らない。 でも確かに、お互いは繋がっていた。 背を向ける形だったけど、寄り添い合っていたんだ。 見えない世の中の変化の渦に飲まれながらも、二人で居る時だけはその 流れの早さを感じることなく、穏やかだった。 「……ヴァンさん、何か歌ってくれませんか?」 背を向け、座ったまま。 ポツリと言ってみる。 本当は、お互いの顔を見たい。 ちゃんと顔を見て、話したいけれども。 お互いの立場もあり、それが出来ないでいた。 顔を合わせて話せば、相手に対する想いが膨れ上がって歯止めが 効かなくなるかも知れないから。 でも、今日でこの逢瀬は終わりだろう。 お互いを取り巻く環境は引き返せないことを教えてくれているから。 これで、最後。 今日で、最期。 そう思うと、余計に相手を見れなくてギンジは終始座ったまま顔を伏せていた。 見ちゃいけない。 見たら、自分は泣き叫ぶだろう。 それだけは絶対にしちゃいけないんだ。 ヴァンの強い意志を知っているからこそ、そんな事は言えやしないし、言いたくない。 『貴方が好きだから』 その言葉すらも、もう言ってはいけない言葉。 でも、自分が死ぬ事になっても。 相手が死ぬ事になっても。 互いを忘れない為に。 一つでも何かお互いがこうして同じ時間を過ごしたという証拠が欲しかった。 眠る前に、時々ヴァンが歌ってくれた譜歌。 妹であるティアさんが眠る時に歌っていたもの。 最初は子ども扱いされてる気分で気恥ずかしかったけれど、あの歌を聞くだけで 何があっても落ち着いて眠れた。 両親が死んだ時の悪夢を見た夜も、彼の歌を思い出すだけで安心できた。 何時もは夢現に聞いていた歌。 でも、今夜は…死んでも忘れない為に、歌って欲しかった。 「……忘れたく、ないんです…」 必死に相手を見たい想いを抑えながら、懇願した。 「……あぁ。」 ヴァンは短く一言だけ言うと、ギンジの頭を軽く撫でた。 そして静かに、歌い始めた。 「…ッふ…、ぅえ…っ…」 いつもは安心できる旋律なのに。 いつもだったら穏やかに眠りを誘う詩なのに。 湧き上がるのは、涙。 どうしようもなく、この人が好きなんだという気持ちが、 雫となって嗚咽とともに洩れ出る。 本当は耳を塞ぎたかった。 こんな悲しい歌は、聴きたくなかった。 でも、聞かなければ一生自分は後悔するだろう。 だからこそ、『最期』という現実を感じ、自分を苦しめる。 顔を伏せていて、良かった。 こんなみっともない顔を見られたくなかったから。 この人を、これ以上苦しめたくなかったから。 「…ギンジ君…」 歌が終わり、ヴァンがギンジの前で膝をつく。 そっと頭を撫でる手は、壊れ物を扱うかのようで。 それが余計にギンジの悲しさを一層強くする。 「………私は世界を変える。この意思は何があっても変えない。揺らぐ事はない。」 「……はい…」 「……さようなら。」 最期の言葉と共に、伏せたままの頭に軽く口付けを落とされた。 +++++++++ 「…よ…っと…」 薄暗くなりつつある空を飛んで。 日が沈みきる前に訪れた。 「……こんにちは、ヴァンさん。」 沈む夕日に照らされながら、ギンジは小さく呟いて微笑んだ。 「もうすぐ、季節が一巡りしますね。…思ったより、早い気がします。」 暗闇に包まれ、星と月に照らされ。 ギンジは微笑を絶やすことなく、呟いた。 まるで、もう現実には出来なくなったあの日の逢瀬と同じように。 振り返れば、あの人が居たあの時のように。 以前と同じ周期、同じ時間。 ほんの数時間、寄り添うだけのあの時と同じように。 長い月日がたった今でも、手を伸ばせば、振り返れば。 そこに、居る気がして。 「…オイラ、ちゃんとまだ覚えてるんですよ。あの歌。」 星空を見上げながら、あの旋律を思い出す。 あの時と変わらない、自分。 歌を思い出すだけで涙が出る。 貴方が自分に触れた手を、思い出すから。 貴方が自分に掛けてくれた言葉を、思い出すから。 貴方の声を、笑みを、全てを。 その全てを、忘れることなんかしたくなくて。 ■■■■■ 色々妄想過ぎてるカプですが好きです、ヴァンギン(笑) この二人だと純愛が一番萌えるんですv それでは、読んで下さって有難う御座いましたv |