■水と器■
「陛下。そろそろ時間ですよ」

広い寝台の上。
まるで子供のように縋りついた大人が、その声で目を覚ます。


「……今何時だ…?」
「もうすぐ14時ですね。昼食を持ってこさせます。昼食は少しでも食べていただかないと。」


気だるそうに起き上がるピオニーの髪を軽く撫で梳きながら、ジェイドは時計を読む。

食事、と聞いた瞬間、ピオニーの表情が僅かに曇った事を視界に入れながら。

「…要らん。と言いたいが…世の中食事を取れないヤツもいるからな…それにまた残しては給仕の者が可哀想だ…」
「そうですよ。それに、少しでも体力をつけて頂かないと困ります。」

単に億劫なだけではない。
単なる疲労ではない。
相当、滅入っている。

それでも、この国を背負う者としての責務の一つとして皇帝は起き上がる。
皇帝という存在の代わりはいくらでも用意出来よう。
しかし、『自分』の代わりは居ない。
それを理解しているからこそ、より一層その背に背負う物が巨大になる。

背負う為には、自分がその器とならなければいけない。
それが大きくなれば大きくなるほど、己という器は大きくならなければいけない。

しかし、時の流れは待ってはくれない。世情の流れは流水のように速い。

…いつか、必ず溢れそうな時がくる。

それを一滴も零さぬよう、この人は無理矢理自分の器を広くする。
長い年月と共にゆっくりと成長する物が、急に成長させられればいつの日かその反動が自己を苦しめる。

それが、わかっていても私は止める事が出来なかった。

それが、この国の為。
それが、この国を思う彼の望み。

私はそれを知っていて、黙認するしか出来ない。
反動に苦しむ愛しき人を、休ませてやる事しか出来ない。



だからこそ。
この人が安息を得られる為ならば何でもしてみせよう。

この手で、この身体で。


貴方という器を、決して壊させはしない。


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あれ?ちょっと話ズレたような感が否めないような…?;;
たまには儚いピオニーと、それを護るジェイドが打ちたかったですの。
正直、一番壊れやすいのって陛下かもしれない…(ぁ)