■光を無くして得た幸せ■

暗い部屋。


何も無い。
狭いのか、広いのかもわからない空間。


もしかしたら単に自分の目に光が無いだけで、部屋自体は明るいのかもしれないなんて思う時もある。


……いや、実際そうだったと、ぼんやりした頭で考えた。


馬鹿な自分はリスクを軽視したあまりに両目の光を失ったのだ。

「…畜生…」


拳を握り締め、腕を上げて顔を隠す。
自分の愚かさに激しく後悔する。



「…おや、起きましたか」

「…!あ、えっと…」

突然、聞こえた扉の開閉音と声に驚き慌てて跳び起きる。

そう、自分はカーティスの屋敷に住まわせて貰っているのだ。
いつ会うかもわからないとはいえ、会うのは当然のこと。


「あぁ、階級呼びでも先生呼びでも構いませんよ。ただ、何かを教えるのはまだまだ先になりますが…。
今暫くは貴方もまだ失明に慣れないでしょうし、私もあまりここにはいれませんからね」

「あ、はい…」


カチャカチャと聞こえるのはきっと茶器が擦れ合う音だろう。
ほのかな紅茶の香りに混じり、相手の香水の香りがする。

目が見えない分、他の感覚が過敏になっているのだろうか。
だが、不思議と不安や恐怖は無く、しかし何故か落ち着かない。


「部屋の換気をしましょうか。目が見えない分、他の感覚を養わなければなりませんしね」

そう言って、相手はベッドから離れ窓へと歩く。
きっと聴覚を養わせる為だろうか、相手は自分に音を聞かせるようにゆっくりと歩いているようで。
コツコツと響く足音が何だか新鮮な気分だった。


「カシム。」

「…?」


ふと、呼ばれた方向へ顔を向ける。
窓際ではなく、左の方へ。
多分方向はこっちで合っている筈だ。


「ちゃんと音の方向は掴めるようですね」


いつの間にか、わざと音を立てずに移動して確かめたらしい。
本当の所、実際は音の出所の識別なんてまだあやふやだ。

「音…じゃなくて匂い、です。」
「匂い?」
「何だか良い匂いがして…」


窓を開けられ、確かに色んな香りが部屋に流れ込んできたけど、ジェイド先生の香りだけはわかる。

香水に隠れた血や薬品臭。
そして、本人自身の体臭だろうか。
独特で心地良い匂い。


「…では、今日は嗅覚を養う訓練をするとしますか。…私を探して下さいね?」

クスクスと聞こえる微かな笑い声。
それと同時に、本人の香りが濃くなる。
きっと自分の間近にいるのだろう。相手の息遣いや体温を感じる。



「さぁ、私が居る方向を当ててみて下さいね?」


…人込みに紛れても、この人だけは探し出せる気がした。



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カシム×ジェイド(笑)
あのイベント一回しか…しかも約一年近く前に見たっきりだからカシムのジェイドの呼称がわかりまs(滅)

カシムの世界は大佐色に染まるといいよ!(笑)