■許された、笑顔■

―夢を、見た。

酷く、懐かしい。夢。





「今日は珍しく遅刻したんだってな。ジェイド」

昼下がり。
いつものように主君であるピオニーの自室にて書類を確かめていると、相変わらず飽きもせずにブウサギを
撫でるピオニーに突然、そう言われた。

「…どこからそんな情報を…」

視線を少しだけ向け、呆れながら溜息を吐く。

「いや、珍し過ぎて城の兵士やら将校達が驚いて噂してたぞ。」
「全く…酔狂ですねぇ…。というか、それくらいの小さな噂を耳にするくらいなら仕事して下さい。陛下♪」

先程からだらだらと寝転んでいる、仮にも『皇帝陛下』に対し、ジェイドは笑顔ながらもぴしゃりとした口調で咎める。
その言葉に、げんなりとした表情でピオニーは顔を伏せた。

私に注意されると、いつもこうやって口を尖らせる真似をする。


「……あ」

不意に、その仕草に懐かしみを感じた瞬間。
何かを思い出し、思わず言葉を洩らした。

「?どうした?」
「いえ…そう言えば今日…夢を見たんです。」
「夢?」
「えぇ。…あまり詳しく覚えてはいないんですが…」

朧げながらも、はっきりと心に染み込んだ温かさを思い出す。

「夢には…ネビリム先生と、貴方、そしてサフィールとネフリーが居ました。」



皆が何を言っているのか、言葉としては思い出せない。
だけど、周りに居た。居てくれていた。
自分は無表情のままだったのに、皆は笑顔だった。
笑顔で、自分を見てくれていた。
そして口々に。

『お誕生日、おめでとう』

と、祝いの言葉を言ってくれた。

そして何よりも、一番鮮明に覚えているのは。

『おめでとう、ジェイド』

そう、言って抱き締めてくれたネビリム先生。
夢なのに、記憶も朧なのに。
その抱き締められた腕の温かさも、重みも、柔らかさも全部確かに感じた。

自分の夢にしては、あまりに都合が良過ぎる。
先生を失ったあの日から、何もかもが罪だったのに。
咎められる夢ならば、何度も見たというのに。

あんなに温かいと感じた夢は、初めてだったのだ。



「…いつもなら、ちゃんと定刻に目覚めるんですが…」
「ふーん…で、今日は目覚めなかったってわけか…」
「別に夢を理由にする気は無いんですけどね。結局起きれなかったのは私ですから」

眼鏡を押し上げ、目を通した書類を机に置くと、立ち上がったピオニーが目の前に立った。
そして昔と変わらない、無邪気な笑顔を浮かべ。

私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で、髪を乱した。

「ちょ…何を…!?」
「良かったな、ジェイド!」
「…え…」
「お前がお前を許した。そしてお前の中のネビリム先生も…やっと笑えたんだろ?」

呆ける私を他所に、ピオニーはとても嬉しげに笑う。
その言葉が頭の中にあった重たい『何か』の中にすぅ、と浸透するかのように染み込み、それを貫き、消えていった。
その瞬間、夢に見たネビリム先生のあの笑顔が見えた気がした。




「今日は夜、空けてあるんだろうな?」
「えぇ、仕事を入れたくても貴方が先に根回しして下さったお陰で。」
「当然だ。こーいう時は権力って便利だよな〜」
「…貴方という人は…」

今日は、私の誕生日。
貴方がこの世界からいなくなって、何年になるだろうか。

貴方がもし、生きていたら。


また、あの日のように笑顔を見せて下さいますか?



ネビリム先生…


『お誕生日、おめでとう。ジェイド』





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2008年*誕生日祝い文で雪国幼馴染…というか先生とジェイド(笑)
漫画の方でピオジェを描いたので小説ではこんな風にしてみましたが…微妙〜;;
凄く時間切羽詰った感じ丸出しだ…;もうちょっとがっつり祝いたかったです…!!;

何はともあれ、シルフリデーカン・ローレライ22の日
誕生日、おめでとう!ジェイド!!