■子犬のマーチ■
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確かに、自分は多少犬っぽいところがあると認めよう。 でも、こんなことって…。 「…確かに、新品同様の物が廃棄されるのは勿体無い、というのは十分わかりますけど…」 目を閉じ、眉間に皺を寄せては珍しく渋い顔。 説得力を増したいのか、律儀に彼は正座だった。 その姿を、少し高い位置から座って見下ろす。 勿論、威圧感…いや、自分を更に強く見せるために。 正直に言ってしまうと、見下ろした方が彼が可愛く見える。 「人間のオイラに犬の首輪ってどうなんですか!!」 床をバン、と強めに叩きながらギンジが吠えた。 まるで初めて首輪をつけられ、その不快感を主張する飼い犬。 「似合ってますよ?」 そしてその主張を笑顔で跳ね除けるのはジェイド。 躾は最初が肝心です、と言いながらすっかり飼い主気分らしい。 「似合うとか、そういう事じゃなくて…人間の尊厳の問題で…」 「ファッションの一部だと思えばいいじゃないですか」 唇を尖らせ、不快感を露にしてぐちぐちと呟くギンジに、ジェイドは尚も軽い調子で即答する。その応酬が内心、 ジェイドには愉しくて堪らない。 「あー…もう…」 そうこう繰り返してる内に、遂にギンジが折れる。 毎度の事ながら、口では敵う訳が無いのだ。 むぅ、と不貞腐れつつ言い争いに疲れたのか、ギンジはジェイドのソファーの肘置きに顎を乗せるとそっぽを向いた。 同じようにソファーに座りたくても、ソファーは一人用。 違う場所に移動したくても、首輪には鎖がつけられていて、そしてその鎖はしっかりとジェイドの 手に握られているのだ。 元々、自由奔放に動き回るのが好きなギンジにとっては窮屈で仕方ない。 しかも、飼い主気分で遊んでいるジェイドは何時の間にか本をその膝に広げていた。 こうなっては暫くの間大人しくせざるを得ない。 「何なんですか…もう…」 アルビオールをグランコクマに着陸させ、整備を終えて機内から降りた瞬間。 突然ガイとルークに拉致され連れて来られた大きめのお屋敷。 そしてジェイドが待ち構えていた辺り、恐らくカーティスの屋敷だろう。 だが、何故連れて来られたのか皆目検討がつかない。 更に言うと、何故首輪をつけられたのか、もっとわからない。 「オイラが何をしたって言うんですか…」 ギンジはブツブツと文句を零しながら、肘置きの部分に頭を乗せた。 流石にいい材質のソファーなのか、程よく柔らかくて頭が置きやすい。 少なくとも、座り慣れた硬い操縦席よりは寝易い。 (…眠い…なぁ…) ここ最近、熟睡した記憶が無い気がする。 ふかふかしたソファーに頭を預け、規則的に針が進む音を鳴らす時計の音に睡眠効果を感じ。 ギンジはウトウトと睡魔に襲われ、そのまま瞼を落とした。 「…ふむ、やっと静かになりましたか…」 規則正しい寝息を聞き、ジェイドが読んでいた本を閉じる。 いや、正確には読んでいたフリをしていた。 単にこうしていれば時間が稼げるからだ。 『兄さん、時々寝ることを忘れちゃう時があるんです…』 一昨日の夜、ノエルが心配そうに呟いたのがきっかけ。 それに合わせてアッシュもろくに寝てないのでは、という話が浮上し、今回の拉致に至った。 (向こうはちゃんと成功していますかねぇ…) そう考えながら、小さく息をつく。 アッシュは強情故に手強い。 自分以外のメンバーで強攻策をとっていることだろう。 (…私なら絶対に遠慮しますね…) 「…ん…」 自分の近くで眠るギンジが小さく声を洩らした。 その寝顔はまるで幼い子供のようで、ジェイドは思わず微笑んでしまう。 「まぁ、ここまでする必要はなかったですかね…」 首輪に繋がれた鎖を外し、ジェイドは眠り落ちたギンジの身体を抱きかかえる。 「んー……」 もぞもぞと身動ぎ、温かい位置を見つけたのかギンジはジェイドの胸に擦り寄った。 そして再び静かに寝息を立て始める。 「……子供過ぎるのも、問題ですねぇ…」 クス、と小さく苦笑し、ジェイドはゆっくりと近くのベッドにギンジを降ろすと、その柔らかな癖ッ毛に指を通す。 ふわふわして心地よい感触。 そしてそのまま頭を軽く撫でてやれば、少しだけギンジは動くと嬉しそうに微笑んだ。 勿論、深く眠っている。 その微笑みにジェイドは不意を突かれたように一瞬だけ動きを止め、そしてゆっくりとその手を離すと、 「……おやすみなさい。」 そう、優しい声色で呟いた。 *** 「…確かに、旦那に任せるとは言ったが…」 夕刻になり、夕飯に呼びに来たガイは部屋を見るなり深く溜息を吐いた。 勿論、首輪に繋がれてベッドの上で爆睡するギンジと、呆れ返るガイを見て愉しげに笑うジェイドを交互に見ながら。 「似合うでしょう?」 「確かに似合うけど…」 にこにこと笑顔で答えれば、ガイは一層項垂れた。 そしてその後、起き出したギンジが再び吠え始めたのはお約束。 |
■■■■ タイトル、、本当関係ねぇー!!;; …というか当初は裏にしようとしてました。 もう途中からほのぼのでいーかな、と!; いや、ほのぼのもしてませんけd(黙れ) そして首輪とかつけたのは単なる大佐の趣味です。(ぁ) ギンジは睡眠薬でも盛れば簡単に寝ます(笑) ++余談++ 「そう言えば、アッシュさんは…?」 「アッシュはですねぇ…」 言うべきか、言わないでおくべきか…と悩むジェイドの様子に、ギンジは首を傾げる。 「アッシュは少々、強情ですから…ガイ達が力ずくでナタリアとルークの手料理を食べさせて…気絶しました。」 「…は?」 「いえ、最初は穏便に睡眠薬か手刀で意識を落とそうと思ったのですが、これだと抵抗され余計に悪いので…。 ナタリアの手料理ならばアッシュは全力を持って食すと思いましてね。彼女の料理ならば睡眠薬を盛る必要もありませんし。」 「………」 「他のメンバーがあちらを担当したのは、料理を口に入れたアッシュが無駄な抵抗をしないように押さえつけるためで…」 「狽、アッシュさーん!!!;」 「おや、彼なら絶対安静ですよ♪」 …こんなオチって…;; |