■眠れぬ夜を無くすモノ■

目を開けては閉じ、寝返りを打って。

それでも睡魔はやってこない。




「…チッ…。」

忌々ましげに舌打ちをするが、どうしようもなく。アッシュは不機嫌ながらもベッドから降りた。
妙に頭が冴えているのは、恐らく床に着く前にレプリカと通信したからだろう。
夜風に当たれば少しは気が紛れるかもしれない…そう思い、アッシュは腰に剣を挿し、部屋を出た。




今夜は綺麗な月夜なんだと、外に出て初めて気付く。
夜風は程よく冷たい。

ふと、少し音の外れた歌が聞こえた気がした。
宿からそう遠くない。

何より、聞き覚えのある声。

アッシュは街の外れに足を向け歩くと、着いた先は、アルビオール。



「何してるんだ…?」

機体の、操縦席の辺りにあるガラスの所。
そこにギンジは居た。

「あ。アッシュさん。」

ギンジは見慣れた顔に、いつもの笑顔を向けてきた。

その笑顔から視線をずらすと、手や頬が少しばかり汚れているのが見え、今まで整備をしていたことがわかる。
共に同行してわかったが、ギンジはどんな時でも手を抜かない。
今夜も、こんな夜更けまで頑張っていたのだろう。



「空を、見てました。」


ギンジは空に浮かぶ月を眺めながらそう呟いた。


「早く、朝にならないかなって…小さい頃、月夜を見ながら考えてたなぁって…思い出しまして」

どこかはにかんだように、ギンジは頬を掻きながら照れ笑いを浮かべる。

「うち、爺ちゃんが有名な技師だったから、両親も忙しくて…殆ど家にいませんでした。だから、よくノエルが泣いちゃって」

懐かしいものを見るような目で、ギンジは月を見た。その目の先にはきっと、懐かしき思い出が映っているのだろう。







「早く朝になればいいのにって…私は毎夜兄と言っていました。二人きりはとても寂しくて…。」


工具箱に道具を直しながら、ノエルは軽く笑う。

「そしたら兄さん、私が安心して眠れるようにって、私が眠るまでずっと歌ってくれたんです。」


今でも思い出す、調子外れの、子守唄。


「母が歌ってくれた唄を、うろ覚えながらに歌っていましたからね。最初はおかしくて笑いました」

クスクスと、ノエルは笑った。

「子守唄、かぁ…」

傍にいたルークも、その話しに耳を傾けながら小さく笑う。

「おかしくて、懐かしくて、安心して…いつの間にか寂しさを忘れて眠れたんです。だから今でも夜が来ると思い出すんですよ?」

言いながら、にこりと微笑むノエルにルークも同じく微笑む。その微笑みはとても穏やかで。


「な、ノエルも歌える?」

ルークはノエルの近くに座り、尋ねた。

「え?覚えてはいますが…私はティアさんみたいに上手くはありませんから…」

「いいよ。よければ歌ってくれないかな?聞いてみたいんだ」

聞いたら、眠れそうな気がする。とルークは付けたし呟く。

「…はい」


その言葉に、ノエルは微笑むと懐かしい旋律を口にし始めた。

懐かしい、子守唄。



「オイラは、夜の作業場から聞こえる音を聞いて紛らわせてたから大丈夫でしたが、ノエルは違ったから、
いつもベッドの横に座って歌ってましたよ」

クスクスと、ギンジは懐かしい思い出に微笑む。

「…仲、いいんだな…」

その言葉やギンジの表情に、アッシュも自然と穏やかな気分だった。

「…アッシュさんも、眠れないんですか?」


問い掛けられた言葉に、アッシュは少し黙り込む。

だが、ギンジには見抜かれているのだろう。
コイツはこういう事には聡い奴だと知っている。

…隠しても、無意味だ。

「…まぁな」

そう、短く返すと、ギンジは少し悲しげに苦笑し、また空を見上げた。

数秒、静寂に包まれた。
それを消したのは、不器用な歌声。


決して上手とは言えない。
けれど、どこか懐かしい響き。

眠りを誘う、穏やかな唄。


(…レプリカの奴も、落ち着いてきてやがる…)


回線を通じて感じる相手の心境。
同じ歌が、心に浸透していく心地良さ。

初めて聞くはずなのに、どこか酷く懐かしい。




月夜に浮かぶ、優しい歌声。
久しぶりに、穏やかな睡魔に包まれた夜だった。


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アシュギンでルクノエってどうよ、自分(笑)
あ、いや普通にNLだとノエルとかナタリア辺りが好きですの!(黙れ)
ってかノエルとギンジのほのぼの癒し兄妹が好きですv

歌はノエルはちゃんと歌えるけどギンジはちょっとだけズレてる方が可愛いに一票(笑)
不器用なお兄ちゃんが好きなんだい!!v