■雨に唄えば■

「あー…降ってきちゃいましたねー…」



顔が雨に濡れないよう、額に手を雨除けにしながら、年齢に合わず子供のような大きめの目を空へと向け。
店の軒先でギンジは降り出した雨を眺めていた。


「うーん…荷物、濡れないようにしないと…」

困ったように、しかしどこかはにかんだような笑みでこちらを見る彼に、自分も思わず微笑する。
この街に住む者としては雨天が嬉しいのだろう。

この街は木々も殆ど見ない。
雨があまり降らないらしいから。


「どうしましょうかね〜…荷物は、オイラの上着で覆えば何とか…」

言って、ギンジは丈の長い自分の上着を脱いでさっき買ってきたばかりの、道具類の入った紙袋を覆う。
躊躇いの一切無い行動に、口を挟む隙も与えないのがギンジらしい。それに、それを言った所で『大丈夫ですよ!
オイラ、それなりに身体は丈夫な方ですし…』と言って笑みを見せるだけだろう。


「…仕方ない、走ればそんなに濡れませんよね?」

そう言って、ギンジは荷物を小脇に抱えると駆け出した。

「今まだそんなに降ってないですから!早く帰りましょう!!」


雨空の下、笑顔を作って。
空いた方の手を振り、自分を呼ぶ。




バシャバシャと水溜りを叩く音と、降り続く雨の音。


だが、不意にギンジの足が止まり、民家の軒先に行く。
それを追い掛け、自分もその隣に。



「ちょっと待ってて下さいね」


そう言って、ギンジはまた雨の中を走り、近くの草場へと。

少し腰を曲げ、手を動かしている。
何をしてるのだろうか、と思いながらそれを見つめる。



やがて戻ってきたギンジの顔には嬉しそうな笑顔。

そして手には、一匹の大きなカタツムリ。


「カタツムリが居ましたー!」

子供のように嬉しげな声をあげて手に乗せたソレを見せるギンジ。

「シェリダンはそんなに雨降らないですから…滅多に見れないんですよ。
こんなに大きいの見るの、オイラ初めてです」



その言葉に、盛大に溜息を吐きたくなった。

そんなモノの為に雨の中に戻っただなんて。


「オイラの職場の人の子供さん、まだ小さいからカタツムリを見たこと無いんですよ。
後で見せてやろうかな…」


その幼子の笑顔が頭に浮かぶのか、ギンジはカタツムリの目を指先で突付き遊びながら顔を綻ばせた。


まるで、子供のような無邪気さだ。本当に大人の男なのか怪しく思えるほどに。

だが、そんな彼を自分は愛しく思う。
そして、憧れてもいるのかもしれない。

自分は子供の時でもこんな風に無邪気に笑うことなんて無かったから。




世界が危機に瀕している。
それはギンジも知っていること。

だが、それでも彼はそんな事を微塵も感じさせないような笑みを浮かべる。




ほんの一時の時間だとしても。

この瞬間は何よりも愛しい時間。




何となく、この雨に感謝したくなった。





■■■■
初のギンジ受け小説。
雨の日デートのお相手は【ジェイド・ガイ・アッシュ】のいずれかをお好きにチョイスして下さい(笑)