■Unusual existence■(ディスト+ギンジ)

この出会いは、預言に記されていた事だっただろうか?


偶然、所用でベルケンドに訪れた際。
初めて聞く声に呼び止められたのがきっかけ。

「ネイス博士…?もしかして、ネイス博士ですか!?」

驚きを隠そうともせず、嬉しげに目を丸くしながら懐かしい呼び名で呼ばれ、思わず振り返ってしまった。
初めて見る顔。
もしかしなくても、初対面。

「…?誰です、貴方は」

いつもならば無視をするが、何となく反応を返してみる。
勿論、この人物がどこの輩か不明なので顔は不機嫌状態。
いつもならばこの表情だけで『神経質そうな奴』という印象を相手に与えるから、敬遠されるのだが。
相手には全く効果はないようだった。
むしろ、目の色を輝かせたまま駆け寄ってきたのだ。

「あ、えっと…オイラ、ギンジって言います!シェリダン・め組のイエモンという技師の下に居るんですが…」

興奮状態なのか、ギンジと名乗った青年は何度か言葉を噛みながらも答える。

「イエモン…あぁ、よく聞く名ですね。腕の良い職人だとか。」

正直、興味はあまり湧かないが、音機関に携わっていると時折聞く名だ。
マルクトの軍用艦『タルタロス』の製造に関わった人物だった筈。
そして今現在は飛行機関『アルビオール』なるものの設計をしているとか。
自分とは目指すものは異なれども、彼の仕事は確かだという噂も聞く。

「爺ちゃんの事を知ってるんですね!へへ〜…何だかオイラが誇らしいです」

ギンジは照れ隠しなのか、後頭部を掻き毟りながら嬉しげに微笑んだ。
その笑みに、ディストは少しばかり目を見開く。
身に覚えがある、懐かしい微笑み。

(…私が、ジェイドと居た時と似たような笑い方をする子ですね…)

自分の唯一の憧れた存在。
絶対的な信頼と、羨望を向けられる相手―ジェイド。
彼と居た時間の自分と似ているのだ。この笑みは。



「…貴方はあのイエモン氏の血縁者なのですか?」

自分の意識が過去へと遠のいてしまう前に、自らの思考を打ち切るようにギンジに問い掛ける。
自分にとってはどうでもいい話題。
別に、『急いでいるから』と言ってしまえばこの人物との会話も切れるのだが、研究とジェイド以外の話を
したのは久々な事もあり、何となくそれはしなかった。

「あ、はい。イエモンはオイラの祖父です。今日はオイラだけ仕事で来ているので居ませんが…」

何の変哲も無い、普通の会話だと言うのに、彼はにこにこと笑みを絶やさずに答える。
…いつもこうなのだろうか?

「…貴方、笑ってばかりで疲れませんか?」
「へ?」

何となく尋ねてみると、ギンジは数秒考え込むような表情をした後、
すぐにまた笑みを浮かべ、

「笑うの、癖なんです。」

…と、気の抜けたような笑いを見せてきた。

(緊張感も何も無い、お気楽な人間なんですね…)

その笑みに、軽く呆れ混じりに脱力感を感じる。

「あ、でも今は特に、ですかね〜…。ずっと憧れていたネイス博士の前なので…
オイラ珍しく緊張しちゃってます。」

照れた子供のような表情を作りながら言う相手に、ディストは虚を突かれた。


(…憧れ?私に?)


『死神ディスト』の異名を持つ自分なのに、この青年はそこらの人間のように蔑むどころか、憧れの感情を持っている?
ありえない、と頭では思うのに、視界に入るその笑みはそれを微塵も感じさせない。
裏が無い人物、とでも言うのだろうか。
稀有な存在に少しばかり興味が湧く自分が居る。


(私に対してそういった感情を持つ人間はライナー以来ですね…)


正直、悪い気はしない。
そのせいだろうか、自分でも不思議な程自然に。



「…私の研究室へ来ますか?」


そう、彼に声をかけていた。




Unusual existence
<珍しい存在>
■■■■

ディストとギンジ、出会い編(笑)
かなり捏造入ってますが、まぁ気にしない方向で☆(屑!)