■猫が、鳴く(シンク+ディスト(→ジェイド)
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ぽつぽつと、何かを叩く雨音に混じり。 遠くで光り、その後に続く雷鳴よりも明確に。 何を鳴いているかなんて、わかりはしないけれど。 猫が、鳴いている。 それが煩くて、仕方なかった。 +++ 「だからって、殺す事なかったんじゃないんですか?」 手を頭の下に組み、ソファーに横になっていれば突然呆れたような声が降って来た。 声の主である人物は皆の前で見せる派手な衣服とは違い、今日は白衣を纏っている。 「いいじゃない、猫くらい。」 「猫くらい、だからですよ。殺す事もないでしょう?労力の無駄です。」 あの路地で朽ち果てるのを待つばかりの猫にそんな気遣いを考えるのも労力の無駄だと思うけれど…と、 それを言うのも労力の無駄なような気がしたから。 そして暫くの沈黙。 お互いにとっては別に重くも軽くもなく、何も無いだけの沈黙。 聞こえるのはディストの手先が動く度に鳴る金属の音と、窓の外から聞こえる雨の音。 「…やっぱいいや」 寝ようと思っていたけれど、気分じゃ無くなったので自己完結の言葉を呟きつつ気紛れに起き上がり、 何か言うかな、と思っていたけれど何も言われなくて少し拍子抜けしてしまう。 まぁ、単に実験に集中しているから余程邪魔に感じないなら相手をするのも面倒…といったところ 派手なものは望んでないけれど、少しくらいは動じるなり何か反応が欲しかったかも。 僕が誰かに抱きつくなんて事、今まで無かった事なんだから。 鼻腔を擽るのは、微かな機械油と、仄かな薔薇の匂い…そして、人間の体温の匂い。 そのまま前のめりに腰を曲げれば、流石にお互いの姿勢も前へと崩れる。 そこで漸く、少しだけ煩わしそうに眉間に皺を刻んだ顔が此方を振り返ってきた。 「シンク」 「何?ディスト。煩いとこのまま体を締めるよ?」 言葉を発した後、珍しく苛立っている自分に気付くも、やっぱり別にどうでもいいと思った。 片腕で相手の体を抱き締めつつ、何となく近くの棚の上にあった鋭利なナイフを手にとり指で遊ばせながら、 流石に付き合いも長い為か、何となく察してくれたディストは賢い。 数秒間を空けた後、ディストは小さく溜息を吐いて自身が言おうとしてた言葉を飲み込み、再び視線を僕から外した。 そうして再び訪れた沈黙の中に響くのは、窓を叩く夜風と雨音だけになった。 じぃっと、仮面に隠れた目でそれを凝視する。 特に意味は無いけれど、雨が気になって仕方なかったから。 「…シンク」 「何?」 「貴方は何をそんなに苛ついているんです?」 「はぁ?何言ってんの?」 雷鳴が近くなり、雨音が一層強さを増す。 こんなにも煩いのに、どうしてここにいないはずの猫の声が聞こえるんだろう。 「…雨の日に、猫を殺すのはやめなさい。」 その言葉に、謀らずとも目を見開いてしまう。 …何だ、やっぱりわかりやすいのかな。 「貴方は……いつも雨の日だけ、近くに猫が居たら殺していますよね」 それも決まって、あの一行と会った日。と言う言葉は、敢えて口に出さずに突きつけてくるディストは 更に言ってしまうと、その中にいる特定の人物について言わないのは、多分自己防衛の為なんだろう。 普段は何だかんだと言っていてもディストはあの軍人を慕い続けているし、ずっとあの背中を…いや、 「…今日殺した猫は、黒猫だった」 手にしていたナイフをソファの上に放り、そんな事を言ってみる。 でもこんな他愛の無い呟き一つでも、ディストは僕の言葉の先にある答えを導き出そうとする材料にする。 「近くに白猫も居た。離れた位置からこっちをずっと見てた」 少しだけ亡骸となった黒猫を見た後、咎めるわけでもなく僕を見つめ続けていた猫の目。 一言も発していないのに、その目が何かを言ってきているような気もするし、何も言わずにただ見ていただけ でも、この部屋にいる『白猫』は、こちらを向いているのに…僕を見ていない。 僕の話を通して、違う所へと意識を飛ばしている。 そう、きっとその『視線』は…黒猫へ。 |
◆◆◆ 超久々に打って見たり(笑)何だろう、リハビリでアビス小説打つとシンクとディストが一番打ち易いような気がする…何故だ(笑) そんなこんなで、一応ちょっとだけ続きます。多分、次は裏入るかも。空回り万歳(笑) 読んで下さり有難う御座いましたv |